会計な小噺

ベンチャー企業の支援を行う公認会計士によるブログです。主に会計、財務の話をします。

なぜVCは投資事業有限責任組合なのか

今回は、なぜベンチャーキャピタルの多くが、投資事業有限責任組合というスキームを利用するのかについて書こうと思います。

 

当ブログでも、VCの組成について度々書いていますが、

 

kimkomiipo.hatenablog.com

 ほとんどのVCは、投資事業有限責任組合というスキームを利用してファンドを設立しています。

 

では、なぜVCは投資事業有限責任組合というスキームを使うのでしょうか。

 1.投資事業有限責任組合とは

 投資事業有限責任組合とは、平成16年に改正された投資事業有限責任組合契約に関する法律(LPS法)によって定められた組合のことです。

投資事業有限責任組合は、無限責任組合員(GP)と有限責任組合員(LP)の2種類の組合員で構成されるのが最大の特徴です。

GPはファンドの業務を執行しますが、無限責任を負います。一方、LPは業務を執行しませんが、出資額までの有限責任のみを負います。

 

2.VCが投資事業有限責任組合を選択するメリット

(1) LPとして出資者を募ることができる 

 投資事業有限責任組合では、GPとLPの2種類の組合員で構成されます。VCが資金を集める場合、多くの企業から出資を募りますが、出資を行う企業からすれば、VCへの投資に無限責任を負うことは難しいと考えられます。

一方、LPとして出資できるのであれば、出資を行う企業のリスクは出資額のみに限定されるため、出資することが比較的容易となります。

業務執行を行う一方で無限責任を負うGPと、出資額までの有限責任を負うLPとを分けることで、多くの企業から出資を募りやすくするメリットがあります。

 

(2) パススルー税制が適用される

投資事業有限責任組合は、法人格を持たないことから、ファンドが獲得した所得に法人税が課税されず、いわゆるパススルー税制の適用を受けることができます。

通常の株式会社であれば獲得した収益に約30%の法人税が課税されることになりますが、ファンドの場合は、ファンドが獲得した所得に対して、ファンドの段階で課税されません。出資者に収益配分をした段階ではじめて課税されることになります。

このため、法人税の課税対象となるスキームを選択するよりも、税制面でのメリットがあります。

 

(3) 金融商品取引法との関係

ファンドを作って投資を行うためには、原則として金融商品取引法上の第二種金融商品取引業投資運用業の登録が必要となり、非常に手間のかかる手続を行うことが求められます。

しかし、投資事業有限責任組合においては例外が認められており、「適格機関投資家等特例業務の届出」を行えば、第二種金融商品取引業投資運用業の登録をすることなく、出資者からの資金集めと投資運用を行うことができます。

適格機関投資家等特例業務の届出は、第二種金融商品取引業投資運用業の登録よりもはるかに手続が簡単であるため、ファンドの組成の観点でもメリットがあります。

 

3.VCが投資事業有限責任組合で留意すべきこと

(1) 公認会計士または監査法人の監査を受ける

投資事業有限責任組合は、解散前までは毎事業年度において財務諸表等を作成し、公認会計士または監査法人の監査を受ける必要があります。

 

(2) 出資者の構成に制限を受ける

適格機関投資家特例業務の届出を行う場合、出資者の構成に制限があります。VCの場合は、1名以上の適格機関投資家(銀行、保険会社など、金融商品取引法で限定列挙されたもの)と49名以下の適格機関投資家以外で構成される必要があります。

 

4.まとめ

VCがなぜ投資事業有限責任組合というスキームを利用するかをまとめると以下の通りだと考えます。

・GPとLPを分けることで、より多くの出資を募ることができる
・税制上のメリットを受けることができる(パススルー税制)
金融商品取引法で求められる手続負担を軽くできる

 

投資事業有限責任組合のスキームが成立した背景には、ベンチャー企業への投資活動の活性化があったため、ファンドの組成をしやすいスキームとなっていることがわかります。

【VC】新生銀行 フェムトグロース2号を組成

国内のアーリーステージのインターネット関連企業に投資を行う「フェムトグロースファンド 2.0 投資事業有限責任組合」が組成され、新生銀行がリード投資家として出資する。

ファンド総額は40億円とし、アーリーステージの企業に対する投資に加えて、ミドル、レイターのステージまでリード投資家として、1社あたり最大8億円の継続投資を行う。

磯崎哲也氏らが出資するフェムトパートナーズ有限責任事業組合がGPとなる。

 

 

【ファンドの概要】

〈名称〉

フェムトグロースファンド 2.0 投資事業有限責任組合

〈設立日〉

2017年4月27日

〈ファンド総額〉

40億円

〈GP〉

フェムトパートナーズ有限責任事業組合

〈LP〉

新生銀行、新生企業投資 等

 

 

 

 

 

赤字ベンチャー企業にとっての減資

2017年5月15日の官報において、freee株式会社(本社:東京都品川区、代表取締役佐々木大輔)が約16億円の減資をすることを発表しました。

 

一般的に、減資というとネガティブなイメージがありますが、新株発行による資金調達を行うベンチャー企業にとっての減資のメリットについて考えたいと思います。

 

 1.freee社のケース

freee社は資本金を1億円以下にすることを目的として減資を行っています。


2016年6月30日の貸借対照表を確認すると、資本金は1億円でした。その後、2016年12月に33.5億円を第三者割当増資にて調達し、資本金には増資金額の1/2を入れたと仮定すると、減資直前の資本金は約17億円であると想定されます。
今回約16億円の減資を行っていることを考えれば、資本金1億円に戻すことを目的としていたことがわかります。

 

【freee社の資本金推移】 ※筆者推測

2016年6月:1億円

2016年12月:17億円(資金調達により増加)

2017年5月:1億円(減資により減少)

 

 

 2.減資の目的

では、なぜ資本金1億円以下にするように減資を行ったのでしょうか。

最大の目的としては、外形標準課税の回避だと思われます。

 

外形標準課税は、資本金の額が1億円以上の法人が対象となる税金です。
課税対象となる企業は、資本金の額の大きさで判断されるため、freee社は課税対象企業とならないように資本金を減資したと考えられます。

 

 

 3.赤字企業も課税対象となる資本割

外形標準課税には複数の種類がありますが、赤字の企業に対しても、資本金等の金額に応じて課税される資本割というものが存在します。

資本割については、企業に利益(課税所得)が発生していなくても、資本金等の金額をもとに課税されてしまいます。

 

freee社のケースで考えると、今までの累積調達金額が約96億円であり、仮に外形標準課税の対象となると、資本割の金額だけで、なんと約5千万円の税金を支払わなければなりません。
(資本金等の額は96億円、東京都の税率は0.525%を想定)

 

外形標準課税の判断時点は事業年度終了の日なので、freee社は期末日前のこのタイミングで減資をしたと考えられます。

 

 

 4.まとめ

税法上では資本金1億円の壁は大きく、他にも企業にとっていくつかの大きな違いがあります。
・交際費の損金算入
法人税の軽減税率
・繰越欠損金の限度額 など

ただ、一般的には上記の違いは、利益(課税所得)が発生している企業に影響を及ぼします。

 

一方で、創業期のベンチャー企業などで赤字が続いている場合でも、資本金が1億円を超えている場合は、外形標準課税の資本割を支払う必要があります。

課税所得がなくても、事業年度終了の日における資本金の金額によって課税されるっていうのは馬鹿馬鹿しいですよね。。。

 

第三者割当増資などで資金調達を行った結果、気づいたら資本金の額が1億円を超えてしまった、なんてこともあるかと思います。 

資本金1億円以下にするように減資を行うことは、特に赤字のベンチャー企業にとって、無駄な税金を払わされることを回避するというメリットがあります。

 

freee社のように、大型の資金調達や複数回の資金調達を行っている場合には、金額的な影響額が大きくなってしまうので、減資を実施するメリットはさらに大きくなります。

 

 

ジャフコの2017年3月期の決算を見てみる

色々ありまして約1か月ぶりの更新ですが、日本および海外のVC(ベンチャーキャピタル)について、定期的に分析していきたいと思っています。

第1弾として、日本最大級のVCであるジャフコ株式会社(以下、ジャフコ)の業績と投資の状況について考えてみます。

ジャフコ東証一部に上場しているので、今回は発表されたばかりの2017年3月期の決算短信とIR資料から分析していきます。

 

 

 1.業績の状況について

2017年3月期の売上高は27,857百万円、経常利益は13,666百万円でした。2015年3月期から 2期連続で減収減益となりました。

  2015年3月期 2016年3月期 2017年3月期
売上高   61,945   41,155   27,857
経常利益   40,132   19,808   13,666

         (単位:百万円、決算短信より)

 

ジャフコの売上は、株式売却による収入とファンドの管理収入の2つに大きく分けられます。

■ 株式売却収入

2017年3月期は、ロコンドやベガコーポレーションなど国内6社、Suzhou Medical Systemなど海外3社が上場したものの、前期と比較すると国内2社減、海外3社減となりました。このため、株式売却高は前期から102億円減少しています。

 

 ■ ファンド管理収入

ファンド管理収入は、管理報酬と成功報酬に分けられています。2017年3月期の管理収入は70億円となり、前期から16億円減少しました。新規上場社数の減少等により成功報酬が13億円減少したことが理由だと思います。

 

 

 2.投資の状況について

前期と比べると業績はあまり良くないようですが、VCにおいて大事なのは未来です。2017年3月期の投資の状況はどのような感じだったのでしょうか。

  2016年3月期 2017年3月期
国内     12,195     15,180
米国       5,008       3,938
アジア       4,236       1,786
合計      21,441     20,904

     (単位:百万円、IR資料より)

 

投資実行額の総額は微減といったところでしょうか。国内企業への投資は増加している一方で、海外企業への投資は減少しています。ただ、ここ数年は毎年200億円規模の投資を継続して実行しているようです。

 

特筆すべきは、1社あたりの国内企業への投資実行額が増加したことだと思います。2017年3月期の国内ベンチャー企業への投資実行額は29億円増加している一方で、投資実行社数は21社⇒18社に減少しています。

 

これは投資先を厳選すると同時に、高いシェアを取ることで経営関与を強めていく狙いがあるようです。ただ、現実的には、1社あたりの平均投資額の増加を考えると、高水準のバリュエーションで投資せざるを得ない環境になってきているのかと思います。

 

         2016年3月期    2017年3月期
平均投資金額 :  2.9億円   ⇒   4.4億円
平均取得シェア:   20%    ⇒     24%

 

 3.まとめ

ジャフコの2017年3月期については、IPOした投資先が減少したことによって減収減益となりましたが、年間200億円規模の投資を継続して実行しているようです。

 

引き続きベンチャー業界へは多額の資金が流入してきており、ジャフコが2017年3月期に組成した新ファンド「ジャフコSV-5」のファンド総額も650億円規模となっています。

 

ジャフコの国内への投資額は増加している一方で、米国およびアジア向けの投資額が減少していますが、4月にAdAsia Holdingsに対して約12百万USDを投資するなど、面白い投資を行っているみたいです。

 

 

なお、当内容は個人的な勉強のための私見であり、ジャフコへの投資判断を行っている記事ではありません。

 

【資金調達】株式会社カウリス

法人向けクラウド不正アクセス検知サービス「FraudAlert」を展開する、株式会社カウリス(本社:東京都千代田区)は、ソニーのCVCであるSony Innovation Fund及び電通国際情報サービスを割当先とした第三者割当増資により、総額約8,000万円を資金調達した。

 

【今回の概要】

〈調達金額〉

総額約8,000万円

 

〈調達方法〉

第三者割当増資

 

〈調達先〉

Sony Innovation Fund

電通国際情報サービス

【資金調達】AdAsia Holdings

アジアにおいてインターネット広告関連事業を展開するAdAsia Holdings(本社:シンガポール、CEO:十河宏輔)は、シリーズAラウンドとして、ジャフコアジアが運営する投資ファンドを割当先とした第三者割当増資により、総額約12百万USD(約13億円)を調達した。

 

【今回の概要】

<調達金額>

総額約12百万USD(約13億円)

※シリーズAラウンド

 

<調達方法>

第三者割当増資

 

<調達先>

JAFCO INVESTMENT(ASIA PACIFIC)L

【資金調達】株式会社スマートドライブ

クラウド車両管理サービス「DriveOps」などを展開する株式会社スマートドライブ(東京都品川区)は、シリーズBラウンドとして、既存株主、複数の事業会社および金融機関系VCなどから、第三者割当増資により総額約10億円を調達した。

 

【今回の概要】

〈調達金額〉

総額約10億円

(シリーズBラウンド)

 

〈調達方法〉

第三者割当増資

 

〈調達先〉

既存株主、複数の事業会社、金融機関系VCなど